デルタ株の流行により、新型コロナウイルスの感染状況は大きく変わってきています。
2021年1月14日に投稿した記事に最新の感染状況を追加し、子どもの新型コロナウイルス感染症について解説します。
【投稿:2021年1月14日】
【追記:2021年9月6日】デルタ株に関する最新情報を追記しました。
※2022年1月以降のオミクロン株流行についてはこちら
子どもの新型コロナウイルス感染症についてはわからないことも多く、
不安を抱えている親御さんも多いかと思います。
そういった不安な気持ちを少しでも晴らせるように、
小児科医の視点から、子どもと新型コロナウイルス感染症に関する情報についてまとめてみたいと思います。
この記事では、
できるだけ客観的な情報を出典を明示して載せています。
出典が記載していない情報は私の意見が入っています。
まずは、子どもの新型コロナウイルス感染症の感染状況について確認しておきましょう。
(出典元:厚生労働省 データからわかる −新型コロナウイルス感染症情報− )
こちらは、2021年1月5日現在の日本の年代別新型コロナウイルス陽性者累計数です。
このグラフを見ると、10歳未満の新型コロナウイルス陽性者数が少ないことがよくわかります。
町田市の感染状況としては、2021年1月3日現在で、19歳以下のPCR陽性者数は80人(9.5%)です。
町田市の19歳以下の子どもの1000人に1人がPCR陽性になっている計算です。
(出典元:町田市における新型コロナウイルス感染症の状況)
(町田市の19歳以下の人口は約75000人で、全人口の17.5%です)
【追記:2021年9月6日】
2021年8月31日時点の1週間の性別・年代別新型コロナウイルス新規陽性者数を掲載します。
(出典元:厚生労働省 データからわかる −新型コロナウイルス感染症情報− )
2021年1月までの累計陽性者数と比較すると、10代、10歳未満の感染者数の割合が増加していることがわかります。
・ワクチン接種が進み60代以上の感染者数が減少したため、相対的に若年層の感染者割合が増加した
・デルタ株の感染力が強いため、子ども同士での感染が拡がっている可能性がある
ことが原因として考えられます。
デルタ株が流行する前と後では、子どもの感染状況が大きく変わってきています。
町田市の年代別感染者数は以下のようになっています。
(出典元:町田市における新型コロナウイルス感染症の状況)
町田市でも19歳以下の感染者数が増加しています。
(出典元:厚生労働省 データからわかる −新型コロナウイルス感染症情報−)
このグラフは、2021年1月5日現在の日本の年代別新型コロナウイルス感染による重症者数と、
2021年1月5日現在の日本の年代別新型コロナウイルス感染による死亡者累計数です。
小児の新型コロナウイルス感染における重症者と死亡者がとても少ないことがわかります。
【追記:2021年9月6日】
下記のグラフは、2021年8月25日〜31日の年代別重症者数です。
(出典元:厚生労働省 データからわかる −新型コロナウイルス感染症情報−)
子どもの感染者数は増えていますが、20代以下の重症者はほぼみられておらず、デルタ株に感染しても子どもの重症度は低いと考えられています。
しかし、今後のデルタ株感染のデータを集積していく必要があります。
子どもの新型コロナウイルス感染症の数が少ない理由はいくつか考えられます
・子どもは新型コロナウイルスが結合するACE2が少ない
2020年6月に報告された研究で、10歳未満の子どもは、10歳以上の人に比べて鼻の粘膜のACE2が少ないことが報告されました。(JAMA. 2020 June; 323(26))
ACE2は気道の粘膜にあるタンパク質で、新型コロナウイルスがACE2にくっつくことで体内に侵入し感染を引き起こすことがわかっています。
子どもにはACE2が少ないとの報告は多々あり、子どもが新型コロナウイルスに感染しにくい原因のひとつと言われています。
・子どもは新型コロナウイルスに感染しても無症状のことが多い
2020年6月にロンドンから、10代の新型コロナウイルス感染者のうち症状があったのは21%だけで、79%の人は無症状だったとの研究結果が報告されています。(Nature Medicine. 2020 June; 1205(26))
日本の文部科学省からも、文部科学省に報告があった幼稚園児の感染者127人のうち、症状を認めたのは46人(36%)であったと報告されています。(学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル 〜「学校の新しい生活様式」〜 ver.5)
子どもの新型コロナウイルス感染者は無症状であることが多いとの報告は多々あり、子どもが新型コロナウイルスに感染しても気づかれないうちに治癒している可能性が考えられます。
このため、PCR検査が陽性と報告される子どもの数が少ないことが考えられます。
かといって、気づかないうちに子どもが新型コロナウイルスに感染しているかもしれない可能性を恐れる必要はないと思います。
感染しても症状がない、もしくは風邪症状のみの場合、特に問題なく治癒するからです。
有効な治療薬がない新型コロナウイルス感染症においては、診断できても診断できなくても治療内容は変わりません。
また、新型コロナウイルスに感染してしまった場合に、周囲への感染を心配される方もいるかと思います。
しかし、新型コロナウイルスに感染した子どもから周囲へ感染させることは少ないということがわかっています。
・子どもの感染者が出ても、保育園や幼稚園、小学校で周りの子どもに感染者が出ない事例が多い
・家庭内の集団感染において、子どもが発端者であることが少ない
(2020年8月に中国から、家庭内の集団感染で子どもが発端者である割合は8%に過ぎなかったと報告されています。Pediatrics. 2020 August; e20201576)
上記のような理由から、子どもは新型コロナウイルスを周りに感染させにくいと言われています。
もちろん、新型コロナウイルス感染者と接触した場合や、発熱が持続したり、咳などの症状がひどい場合は、新型コロナウイルス感染症を疑ってPCR検査が必要になる場合もあると思います。
そして、新型コロナウイルスの濃厚接触者や感染者となった場合は適切な隔離措置が必要になります。
しかし、新型コロナウイルス感染症よりも一般的な風邪が圧倒的に多い子どもにおいては、過度に新型コロナウイルス感染症を恐れる必要はないと思います。
【追記:2021年9月6日】
デルタ株の感染が拡がり、子どもから子ども、子どもから大人の感染の事例が増えてきています。
これは、デルタ株の感染力が強いことが原因と考えられています。
特に現在は、若年者のワクチン被接種者が多いため、子どもや小さい子を持つ親の年代で感染が起こりやすい状況となっていると考えれてます。
子どもの新型コロナウイルス感染症の症状は基本的に大人と同じですが、
感染しても無症状のことが多かったり、重症化することは少ないです。
では、具体的にどのような症状がどのような頻度でみられるのでしょうか。
2020年1月〜3月にアメリカの新型コロナウイルス感染者を調査した研究を紹介します。
0〜9歳の20,458人、10〜19歳の49,245人の新型コロナウイルス感染者を調べた研究です。
(アメリカの感染者数の多さにびっくりしますね)
(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2020;69(24):759)
この報告を見ると、
・発熱と咳がみられることが多いが、それでも頻度は半分以下
(症状がみられないことも多いことがわかります)
・鼻水は少ない
・吐き気や嘔吐、腹痛、下痢といったお腹の症状がみられることがある
・10〜19歳では筋肉痛や頭痛の頻度が高い
・0〜9歳は嗅覚や味覚の異常を訴えることができないため頻度は低い
といったことがわかります。
2020年10月にカナダから報告された研究で、
嗅覚や味覚の異常、吐き気や嘔吐、頭痛といった症状は新型コロナウイルス感染と関連がある可能性があり、
発熱や咳、鼻水、鼻詰まり、咽頭痛は新型コロナウイルス感染と関連が低かったと報告されました。
発熱や咳、鼻水、鼻詰まり、咽頭痛は新型コロナウイルス感染以外の原因(風邪など)でも起こることが多いということです。